ロケで映り込む人物や建造物の著作権

〜 動画制作・動画活用に役に立つ知的財産権について優しく解説 〜

街角や外でロケ撮影をする場合、背景などに人物や建造物がどうしても映りこんでしまいます。TVなどでは人物にモザイクをかけるなどの加工をしている場合がありますが、動画制作会社として留意しなければならない点を教えてください。

あのモザイクはプライバシー権に配慮したものだと思われます。街並みを映すこと自体は基本的には著作権に侵害しないと考えてくださって結構です。著作物の例示として著作権法には建築物と書いてあるんですけれども、建築物は普通に街並みにありまして、街で写真を取っても必ず映りこむ訳でして、それをいちいち著作権侵害と言っていたらきりがない。写真が撮れないことになってしまいますので、建物については同じ建物を複製するとかというような行為でなければ侵害にはなりません。ですから 、建物の背景、街並みをバックにして動画とかを撮影していただいて、それを商業的に利用して、もちろんそれを売ることも許されます。

それからあとは公の場に、そういった街の中に展示されている彫刻とか絵画、本当に公共の場に展示されている場合ですけれども、そういったものについても、そういった建物と同じ扱いになります。もちろん美術館内の絵画にはそういうものは適用はありませんので、あくまでも街の中に一般的に誰でも通行人に見られる場所にあるものということでご理解ください。

それとモザイクの話は全く違いまして、それはプライバシーの問題。Googleのストリートビューでいろいろと問題があってモザイクがかかっていますけれども、それと同じ考え方かと思います。

肖像権というのはありますよね。それがセレブだとすると、これまた肖像権という、この場合パブリシティ権というふうに学問上言われていますけれども、そういった権利の問題になることはあります。パブリシティというのは、人の名誉ですとか、名声ですとか、そういったものについての権利でして、例えば有名人をバックにして映した映像など、それ自体価値があったりしますので、そういう場合には財産的権利であるパブリシティ権侵害という話があります。

そうではなく、もう普通の無名の一般の方の場合ですと、肖像権ですとかプライバシー権といった人格的な権利は問題とはなり得ます。ですので、先ほどのモザイクの処理というのを最近はやるようになってきたのかなと思います。最近の傾向は、おっしゃる通り、映りこまないほうがいいんだろうなと思います。

イベントのクローズドだったら比較的やりやすいですね。クローズドですと要するにそのイベントに参加するにあたってある意味契約関係が存在すると考えていいですので、その契約の中に撮影しますと、その個々のクローズアップはしませんけれども、アップは映しませんけれども、全体の中に映り込みますよということをご了承の上参加してください、というところを入れておけば、それはそれでOKかとは思います。

ただ、街並みの風景とか契約関係のないもの、イベントになると・・イベントはいいのかな。イベントだとオープンだったとしても、そういう張り紙でもしておけばいいのかもしれませんね。本当にそういう関係がないとすると、やはりプライバシー権、肖像権は問題となります。

あとは一つ配慮する方法としては、利益考慮ということもありまして、その映像を撮影することの公益性ですとか、撮影する側の利益、それに対してプライバシーを配慮するべき利益、特に公の場に出てきているわけでして、祭りなんかですといろいろな人が写真撮影するという場に出てくると、そういった多くの場に出てくる以上、ある程度映り込むのはしょうがないでしょう、という価値判断はありますので、そういった形で処理することはあります。

そこは例えば、主催者側ですとか、そういったものが撮影してプロモーションに使うことの公益性というレベルは高いでしょうし、人の必要性といいますか、そういったものは高いでしょうし、他方で特に神輿を担いでいる方々なんかですと、それこそみんなが前に出たいということがありますし、みんなが撮っていることが明らかですから。そうするとその方の肖像権、プライバシーを保護する必要性というのはかなり低くなると。

ですので、その人の写真を買おう、超アップにして撮るとかというようなことではない限り、全体として風景として切り取る分には問題ないかと思います。

“ロケをしていて、流行曲が入り込んだ場合、制作会社として留意しなければならない点を教えて下さい”

それはやはり音楽の著作権の許可は必要になります。音が入り込んだとしても複製は複製ですので許諾が必要です。

知的財産権のエキスパート、渡辺光弁護士(中村合同特許法律事務所パートナー、ニューヨーク州弁護士)に、一問一答形式のインタビューで、動画を制作、または活用するときに、企業として留意すべきポイントなどを解説いただきました。財産権としての著作権、著作者人格権、著作隣接権とは?二次利用する場合、何に注意すれば良いか?など、分かっているようで、よく理解されてないことの多い知的財産権の実際について、ポイントを押さえ、優しく解説いただいてます。

渡辺 光
中村合同特許法律事務所パートナー
弁護士・弁理士

【主な取扱業務】知的財産権・不正競争防止法・独占禁止法;国際取引法;一般企業法務・商事取引・契約

【経歴】東京大学法学部卒業

【主な著書】

(英文)

  • "Liability of an Operator of Internet Shopping Mall for Distribution of Counterfeit Goods by Shops in the Mall"
    AIPPI Journal Vol. 38 No.1 by AIPPI (2013)

(日本文)

  • 「知的財産権辞典」(共著)(三省堂、2001年)
  • 「財産権判例要旨集」(共著)(新日本法規、 2003年)
  • 「特許・意匠・商標の法律相談」(共著)(学陽書房、 2003年)
  • 「最新事例に見るコンプライアンス違反の相場観知的財産権侵害」
  • BUSINESS LAW JOURNAL 2015年10月号 通巻91号(レクシスネクシス・ジャパン、2015年)

など、多数。

動画制作・動画活用に役立つ
知的財産権14のポイント

知的財産権のエキスパート、渡辺光弁護士(中村合同特許法律事務所パートナー、ニューヨーク州弁護士)に、一問一答形式のインタビューで、動画を制作、または活用するときに、企業として留意すべきポイントなどを解説いただきました。著作権とは?財産権としての著作権、著作者人格権、著作隣接権、二次利用の注意点など、分かっているようで、よく理解されてないことの多い知的財産権の実際について、ポイントを押さえ、優しく回答いただいてます。

動画制作・動画活用に役立つ<br>知的財産権14のポイント

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